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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2324号 決定 1992年7月03日

当事者 別紙当事者目録に記載のとおり

主文

一  相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、

(1)  別紙物件目録記載(4)(5)の建物につき、自ら又は第三者を使用して行っている造作の変更・模様替えなどの一切の工事を中止せよ。

(2)  別紙物件目録記載(4)(5)の建物につき、造作の変更・模様替えなどの一切の工事を自ら行い、又は第三者をして行わせてはならない。

(3)  別紙物件目録記載(1)から(5)までの不動産につき、その占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない。

二  執行官は、別紙物件目録記載(1)から(5)までの不動産につき、相手方がその占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示しなければならない。

理由

一  申立の内容等

本件は、売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)を求めた事件である。

(以下、別紙物件目録(1)から(3)までの土地を「本件土地」、別紙物件目録(4)(5)の建物を「本件建物」といい、両者をまとめて「本件不動産」という。)

(1)  記録上明らかな事実

申立人は、本件不動産についての抵当権者であり(平成二年四月二日付けで登記されている)、その実行としての競売を平成三年三月六日に申し立てた差押債権者である。

相手方は、上記抵当権の設定登記後の平成二年一二月一三日に本件不動産の所有権を取得した者である。

また、本件土地については条件付地上権設定仮登記が、本件建物については条件付賃借権設定仮登記が、それぞれT社を権利者としてなされており(いずれも平成二年一一月六日付け)、相手方は同社の代表取締役でもある。

上記競売事件は、平成三年三月一一日付けで競売開始決定がなされ、次のとおり二回にわたって期間入札の方法による売却実施命令がなされたが、いずれも適法な入札がなかった。

ア  (一回目)

決定年月日 平成三年一二月一三日

入札期間 平成四年二月一八日から同月二五日まで

開札期日 平成四年三月三日

最低売却価額 一括で二九億六一四〇万円

イ  (二回目)

決定年月日 平成四年三月二七日

入札期間 平成四年六月二日から同月九日まで

開札期日 平成四年六月一六日

最低売却価額 一括で一九億二四九〇万円

(2)  申立の内容

申立人は、以上の事実を前提とした上、相手方が上記二回目の期間入札における開札期日のころから、本件建物の内装・外装工事に着手し、工事終了後、暴力団につながるいかがわしい者にこれを占有させようとしており、このような行為は「不動産の価格を著しく減少する行為」(民事執行法五五条一項)に当たると主張して、占有移転禁止・工事禁止等を内容とする売却のための保全処分を申し立てた(その詳細は、別紙「保全処分命令の申立書」に記載のとおり)。

二  当裁判所が申立を認めた理由

当裁判所は、本件申立を認めるべきものと判断した。その理由は次のとおりである。

(1) 「不動産の価格を著しく減少する行為」の存在について

当裁判所は、相手方が「不動産の価格を著しく減少する行為」(民事執行法五五条一項)をしているものと認める。なぜなら、記録によって以下のアからエまでの事実が一応認められ、これによれば、相手方は、本件競売事件において二回目の期間入札が実施された段階に至って、本件建物の占有を第三者に移転しようとしており、しかもその第三者が暴力団関係者となる可能性も高いと判断されるのであって、このような事態が生じた場合には、買受人の出現が極めて困難となることは公知の事実だからである。

ア 本件建物は、執行官による現況調査の当時(平成三年三月二九日)、全くの空室で、埃がたまっているなど、長期間使用されていない状態であった。

イ ところが相手方は、前記二回目の期間入札における開札期日のころから、工事業者を使用して、本件建物の内装・外装工事に着手し、内装はかなりの部分が終了している。

ウ 申立人の担当者が現場作業員に尋ねたところ、改装終了後、すぐにも不動産業者の事務所として使用する様子とのことであった。

エ 相手方及びT社(前記のとおり、本件土地については条件付地上権設定仮登記を、本件建物については条件付賃借権設定仮登記を、それぞれ得た者であり、相手方がその代表取締役である。)は、暴力団と密接な関係があり、本件以外にも悪質な競売妨害に関与していると疑うべき根拠がある。

(2) 執行官に対して、相手方が本件不動産の占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示するよう命じた点について

当裁判所は、このような公示を命じることは適法で、かつ必要なものと認める。その理由は次のとおりである。

民事保全法上の仮処分については、不作為を命じる仮処分とともにその公示を執行官に命じることは、法的には必要がなく、必要のないことを命じることは許されないと解されるのが通常であろう。

つまり、民事保全法上の仮処分において、公示を命じることは通常は許されないと解されているが、それは、法的には必要のないことだからにすぎない。逆にいえば、法的な必要性が認められれば、公示を命じることも許されるのである。

本件は、民事保全法上の仮処分ではなくて、民事執行法上の保全処分である。民事執行法上の売却のための保全処分においては、第三者に対してこれを発令することができるのは、法律の認める特定の場合に限られる。したがって、競売物件の所有者に対する保全処分がなされた後に第三者がこれを占有するに至った場合、その第三者が保全処分の存在を知っていたか否かは、その第三者に対して保全処分を命じることができるか否かの判断においてきわめて重要な意味を有することになる。よって、公示を命じる法的な必要性を認めるべきである。

(裁判官村上正敏)

別紙当事者目録

申立人(差押債権者) S会社

右代表者代表取締役 甲野一郎

右申立人代理人弁護士 原後山治

同 三宅弘

同 近藤卓史

同 大貫憲介

同 髙英毅

同 杉山真一

相手方 乙川二郎

別紙物件目録<省略>

別紙保全処分命令の申立書

申立ての趣旨

1 相手方は、別紙物件目録記載の不動産について、買受入が代金を納付するまでの間、この占有を他人に移転し、又はこの占有名義を変更してはならない。

2 相手方は、前記物件目録記載(4)及び(5)の建物について造作、模様替えなど一切の工事を中止し、これを続行してはならない。

3 執行官は、別紙物件目録記載(1)から(5)までの不動産につき、相手方がその占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示しなければならない。

申立ての理由<省略>

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